希少てんかん症候群患者登録システム(RES-R)の目的
近年、てんかんの研究は非常に進んでいます。特に脳波や画像診断(MRIなど)の進歩、遺伝子の発見やその応用は、今後の診断・治療法の開発に大きく貢献することが期待されています。
しかしてんかんという病気は一様ではありません。原因がさまざまで、それによって治療の方法や見通しが少しずつ異なってきます。稀な原因による患者数の少ない(希少な)タイプでは、病気の全体を把握することが難しく、適切な治療法の導入も遅れてしまいがちです。このような場合には、原因や症状が同じ患者さんからできるだけ多くの情報を集め、いろいろな角度から検討することで、病気の理解や治療法の開発を進めていくことが必要になります。
もし新しい治療法がみつかった場合、医療現場で現実に提供できるようになるには、その治療法が本当に患者さんに有効で安全性に問題がないことを証明する作業が必要です。このように新しい治療法を患者さんに試みることを臨床研究といい、その中で新しいお薬や医療機器を国に承認してもらうことを目的としている臨床研究を治験とよびます。新しい治療法が早く医療現場で使えるようにするためには、一定の数の患者さんにご協力をいただいて、臨床研究/治験を円滑に実施することが必要です。高血圧や糖尿病など患者数が多い疾患では、臨床研究/治験に参加いただく患者さんを集めることは容易ですが、患者数が少ない病気ではここでも困難が予想されます。数の確保ができないために、せっかく開発された有効な治療法がいつまでも使えないとすると大きな問題です。
このような問題を克服するため、希少な病気についての世界的な患者登録システムが構築されてきています。これにより、世界規模で患者さんの情報を登録し、多くの情報から病気の理解をすすめ、原因あるいは治療法を見つけ出し、臨床研究/治験の対象となる患者さんを速やかに把握し、実施することができます。私たちは、このような情勢を踏まえて、日本でも希少てんかん症候群(疾患)患者登録システム(RES-R)を構築することとしました。
この登録システムは、患者さんの種々の情報を集約することにより、病気の全体像とその影響を明らかにし、病気の原因の究明や新しい治療法の開発に役立てるとともに、患者さんやご家族がどのような医療・福祉ケアを必要としているのかを分析して政策提言につなげることを目的としています。また患者さんには臨床研究/治験の情報をお知らせし、広く公平にそして効率的に臨床研究/治験に参加できる機会をご提供したいと考えています。
登録システムに登録する病気
下記の31項目のてんかん症候群および23項目の原因疾患(および原因不明)に該当する患者さんに登録をお願いしています。
1 | 早期ミオクロニー脳症 |
---|---|
2 | 大田原症候群(サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症: EIEE) |
3 | 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん |
4 | West 症候群(点頭てんかん) |
5 | Dravet 症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん: SMEI) |
6 | 非進行性疾患のミオクロニー脳症 |
7 | ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん(Doose 症候群) |
8 | ミオクロニー欠神てんかん |
9 | Lennox-Gastaut 症候群 |
10 | 徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS, ESES) |
11 | Landau-Kleffner 症候群 |
12 | 進行性ミオクローヌスてんかん(PME) |
13 | 海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかん |
14 | Rasmussen 症候群 |
15 | 笑い発作を伴う視床下部過誤腫 |
16 | 片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群(HHE) |
17 | Aicardi 症候群 |
18 | Angelman症候群 |
19 | Rett 症候群 |
20 | PCDH19関連症候群 |
21 | 環状20 番染色体症候群 |
22 | 特発性全般てんかん症候群 |
23 | 家族性てんかん症候群 |
24 | 自然終息性(良性)小児てんかん |
25 | 反射てんかん症候群 |
26 | Jeavons症候群 |
27 | 新生児てんかん |
28 | 高齢(初発)てんかん |
29 | その他の焦点てんかん |
30 | その他の全般てんかん |
31 | その他の未決定てんかん |
登録内容
この登録システムでは、患者さんの現在の状況や、日常診療で行われている検査の結果、遺伝子などの詳細な検査の結果について、RES-R症例登録センターに登録させていただきます。具体的には、下記の内容を登録し、症状の変化を把握するために内容を更新させていただくことがあります:
入力日、病院カルテ番号、患者さんのイニシャル、生年月日、性別、双胎の有無、居住都道府県、発病日、診断名、原因疾患、遺伝子検査の有無とその所見、染色体・アレイCGH検査の有無とその所見、担当医師所属施設、担当医師、診察の所見、発達検査の所見、身体・精神状態およびその他の併存症の有無と内容、発作型と頻度、誘因、脳波所見、画像所見、薬物治療や外科治療の有無と内容、その他の治療、現在の社会生活状況、利用制度
です。(新たな情報があればその都度更新します)
なお、診療録に記載してあるその他の情報を医師に求めることもあります(二次調査といいます)。
個人情報の取扱い
研究に利用する情報には個人情報が含まれますが、病院外に提出する場合には、お名前、住所など、個人を直ちに判別できる情報は削除し、研究用の番号を付けます。また、研究用の番号とあなたの名前を結びつける対応表を病院の研究責任者が作成し、研究参加への同意の取り消し、診療情報との照合などの目的に使用します。対応表は、研究責任者が責任をもって適切に管理いたします。
情報は、病院の研究責任者及び情報の提供先である研究代表者が責任をもって適切に管理いたします。研究成果は学会や学術雑誌で発表されますが、その際も個人を直ちに判別できるような情報は利用しません。
登録にかかる費用
本登録システムの運営にかかる資金は厚生労働科学研究費補助金によって賄われるため、登録に関する費用負担は発生しません。
登録された情報の使われ方
本登録システムは、希少てんかんの全体像とその影響を把握し、医療・福祉ケアの具体的必要性を提言するとともに、病態の解明、新たな治療法の開発、効率的な臨床研究/治験のための基盤整備も目的としています。したがって登録された情報は、学術的な意義だけでなく、臨床研究/治験を計画している研究者の方々、薬の開発をしている製薬企業の方々にとっても重要です。学術的な場(学会や研究班、論文など)以外での情報の公開に関しては、情報公開のための委員会をつくり、十分に議論された後に、そこで承認を受けた場合にのみ情報が公開されます。
なお、患者数が非常に少ない場合には、世界的な規模での協力が必要になります。今後、日本の患者さんの情報についても、世界的な登録システムへ登録することも想定されます。
登録情報の管理、保存及び廃棄
患者さんの診療情報は、インターネットを介して提出され、研究期間中は、名古屋医療センター臨床研究事業部データセンターにて管理、集計、保管されます。当該研究終了後は研究代表者の下で、研究の終了について報告された日から5年を経過した日又は当該研究の結果について最終公表が行われた日から3年を経過した日のいずれか遅い日までの期間以上、適切に保管・管理されます。原資料については参加施設にて上記と同等期間、適切に保管されます。なお、一旦ご同意なさっても、患者さんのご意思によりその同意はいつでも撤回でき、その際には全ての登録情報は廃棄し、それ以降は研究には用いません。しかしながら、同意を取り消した時点ですでに公表論文となっている場合や、研究者や製薬企業などに情報が公開されている場合には、公開された情報から全ての情報を取り除くことはできない場合があります。
実施結果の報告
個人情報を削除した登録情報の集計データや研究の進展については、ホームページ(www.res-r.com)にて随時公開いたします。
実施協力に同意しないことによる不利益について
本登録をご希望されない場合、ならびに登録を途中で撤回された場合(同意撤回書にご署名いただきます)、そのために患者さんの通常の日常診療に不利益が生じることはありません。
参加医療機関一覧
現時点での参加医療機関は:
北海道大学病院
岩手医科大学附属病院
東北大病院
新潟大学脳研究所
西新潟中央病院
自治医科大学病院
埼玉県立小児医療センター
順天堂大学病院
東京医科歯科大学医学部附属病院
昭和大学病院
東京女子医大病院
NTT東日本関東病院
東京都立神経病院
国立精神・神経医療研究センター
聖マリアンナ医科大学病院
静岡てんかん・神経医療センター
愛知医大病院
浅ノ川総合病院
京都大学病院
大阪大学病院
大阪府立母子保健総合医療センター
岡山大学病院
福岡大学病院
聖マリア病院久留米大学病院
長崎医療センター
県立延岡病院
問い合わせ先
【希少てんかん症候群患者登録システム(RES-R)全体に関するお問い合わせ先】
〒420-8688 静岡市葵区漆山886 静岡てんかん神経医療センター内
希少てんかん症候群患者登録システム(RES-R)事務局
電話 : 054-245-5446(代) ホームページ:www.res-r.com